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世界に向けたライブ映像配信の民主化 – 舞台芸術業界における一例 –

Tue 06, 07 2021

世界に向けたライブ映像配信の民主化

- 舞台芸術業界における一例 -

えっ! その劇場に入れない?》

 2020年、オペラ公演のライブ映像配信を主導する為に私は台湾に入った。しかし新型コロナウイルス感染症の予期せぬ急速な世界的拡大のため、突如台湾国内の特定の建物への入館も外国人には禁じられ、不幸な事に私が目的とするオペラハウスもそれに含まれていた。もはや顔を合わせてライブ配信の指導ができなくなった私は、ホテルの一室で配信に用いる機器の設定や試験を綿密に済ませ、その機器をオペラ公演現場のカメラチームに手渡す他に取る手段はなかった。カメラチームは、その機器を簡単に数本のケーブル接続を行い、配信開始のボタンを押すというシンプルな手順で見事に彼らにとって初めてのライブ映像配信を成し遂げてくれた。これは弊社 “SIMPLE LaaS” (Livestream-as-a-Service)が生れた瞬間でもあった。

以下に示す簡単な4ステップで特別な技術者の助けを借りることなく、劇場の現場の方々のみで高品質のライブ配信が可能に成る、というサービスである。

(1) 機器の設定と動作確認(弊社社内)

(2) 搬送(弊社⇒劇場)

(3) 接続(劇場現場)

(4) 配信開始(劇場現場)

 その後、この “SIMPLE LaaS” を通じて演奏家や俳優の方々が持っておられるライブ映像配信に関する多くの心配事を学ぶ機会に出会うとは、思いもよらなかった。これら学んだ内容の中から幾つか紹介する。そして、舞台人の方々の素晴らしい舞台公演の価値を更に高めながら、活動の幅を大きく拡げるために、ライブ配信の可能性を最大限引き出す方法についても述べる。 

 先ずは、ゲスト寄稿者キャノルド氏(Sammi Cannold)をご紹介する。”New York City Center”の舞台監督であり、今のパンデミックの中で劇場が苦悩し生き残ろうとする努力の経緯をドキュメンタリー化した人物だ。先日、私はライブ配信技術の可能性に関する彼女のお考えをお聞かせ頂く機会があった。キャノルド氏のお話を以下に示す。

私が監督活動をしているミュージカル劇場の世界でも、今の時期はライブ映像配信に関する熱い議論が毎日のように行われています。ここ数年、ライブ配信推進派は劇場等の興行界を引き込もうと熱心でしたが、今のパンデミック騒動でライブ配信の実施は確実に増えてきています。我々の業界は生き残りをかけて、可能な限り多くの観客の方々に創作活動を届けたいと考えており、その主要な手段としてライブ配信を採択しています。しかしながら、それを主軸にするつもりはないため、不本意ではありますが。”

そして、キャノルド氏は幾つかの懸念点を示されました。

一つの問題はライブ配信と一度記録された情報を後刻公開する事との違いです。最近の例として、ブロードウェイの ”Diana and Come From Away”のようなメジャーの作品も収録され、NetflixAppleでそれぞれ観る事ができるようになっています。私も含めて舞台人が感じるのは、観客を前にしてその反応を肌身で感じながら演ずる場合と比較して、ライブ配信されている映像、即ち公演内容が思い通りの品質が保たれた状態で伝えられているか? この点にとても神経質になります。お客様を前にしての公演が最も望ましい表現の場であると考える我々舞台人ではありますが、勿論ライブ配信に限界があることは承知しています。しかし、後刻公開であれば、我々も参加する形で公演後の映像修正やエディティングといった「Quality Control」ができます。しかし「収録と同時に配信」の場合、その機会がありません。だから我々は神経質になるのです。そのハードルを乗り越える必要が有ると考えます。そのハードルが存在している一つの原因は、我々がライブ配信という演技形態における演技品質を保つ方法に未だ慣れていないからでしょう。この点についての舞台人の研修の場と、舞台人のライブ配信そのものに対する更なる深い理解が必要であり、求められていると感じています。”  

30年以上の長きにわたって放送や民生家電機器分野に携わり、今はライブ配信の専門家として、私はキャノルド氏の指摘に共感します。ライブ配信に対する舞台人の懸念を払拭し、Quality Controlが保たれていることを信頼して頂く。これは非常に重要な課題だろう。

 舞台公演で同時に配信を行う場合には、舞台監督と映像制作監督の連携が欠かせない。幸いな事に放送業界においては経験豊かな映像監督が舞台監督と緊密な連携がなされ、公演の場に居ない視聴者にも素晴らしい映像が届けられている。しかしまだ創世記にあるライブ配信は映像監督に新たな挑戦が求められている。テレビ放送の場合、基本的にテレビ受像機のみを視聴対象機器として捉えれば良いからだ。

 一方でライブ配信は視聴者の様々な異なる機器〔TV、PC、タブレット、スマホ等〕に対して送られ、しかもどのような視聴形態に対しても芸術性が伝わらなければならない。例えば舞台照明が公演現場の観客にとって最適な場合であっても、映像配信のためのカメラで撮影するには様々な難しい事が生じる。最高の芸術性を保ちつつライブ映像配信を実現するためには、照明や舞台効果を幾度も幾度も試行を重ねる事しかない。しかしながら複雑なライブ配信の実施を稽古のように重ねる事は劇場運営にとって大きな負担である。その負担を低減する効果があることを “SIMPLE LaaS” が実証してくれた。舞台人にとって特段の苦労もなく、何度もライブ配信を稽古のように実施できる。この「負担の低減」は、舞台人の誰もが各々の芸術性を満足できるライブ配信映像を制作する「ライブ配信稽古」の必須条件である。
その稽古の結果の一例をここに示す

提供:Taipei Opera

 ライブ配信の場合も公演の持つ芸術性を最大限に発揮すべき点は勿論だが、その映像がいかに視聴者を引き込むほど魅力的なものになっているのか。これも大変重要な点である。オンラインの視聴者は退屈に成ると即座に離れてしまう。スマホの小さな画面に送られてくる公演の映像をどれほどの遠隔視聴者が続けて観てくれるのか。単一画面で固定された撮像位置からの映像配信は、あたかも立ち去ってくれと願っているようだ。ではどうすれば視聴者を引き留められるのか?マルチアングルか、或いはXR〔現実世界と仮想世界の融合〕か? 我々もまだ結論には辿り着いていないが、確実に言えることは舞台人の熱演がカメラを通じてオンライン視聴者に届くことである。そのため我々は4種のHD映像を同時に配信する〔 4HDs-in-one-4K 〕を試みた。ステージ全体のみならず、舞台人一人ひとりの表情もはっきり見られるようにすることで、視聴者を引き込むことに一定の成功を収めている。

提供:Taipei Opera

 加えてマルチアングルのライブ配信は、表現の可能性の拡大だけではなく、公演制作に関わる負担をも拡大する。その負担を低減する ”SIMPLE LaaS” は、あらかじめ設定されたエンコーダを各々のカメラに接続さえすれば、後は舞台監督も映像制作監督もライブ配信に煩わされる事なく、自らの重要な本来業務に専念できる。さらに新しいビジネスの可能性にも繋がる。ベストなアングルに複数カメラを設置すれば、その中から選抜した幾つかのアングルを “プレミアム チャンネル”として遠隔視聴者に提供し、追加課金も受け入れられる。

 さて、前述のキャノルド氏が指摘された Quality control の課題に加えて、もう一つ別の重い課題が存在する。今日のオンライン視聴者は、ライブ配信を無料と思い込む傾向がある。この二つの課題を同時に解決することで、初めてライブ配信の一般化、大衆化、即ち「ライブ配信の民主化」が実現できる。この二つの課題に共通する問題点は、舞台人と視聴者の間に入ってコントロールする第三者が介在する点であると考える。次項では、この共通の問題点を二つの観点から検証し、解決案を提示する。

 一つ目の観点は、視聴者が第三者からの鬱陶しい宣伝広告を見る事を強いられ、広告主が既に配信映像の興行主に対価を支払っていると視聴者が思う点である。よってコンテンツは無料である、と視聴者は考える。一方で Quality Controlはどうか? 興行主ご自身は広告内容と広告宣伝の挿入タイミングを自ら決める事ができない。よって、全体のプレゼンテーションへの Controlも無い。逆に興行主ご自身が広告の一切を自ら決める事ができ、且つ採算に見合う対価が得られると成れば状況は変わる。以下に示す ”SIMPLE CM ADD” はこの状況を変える為に開発された。

SIMPLE CM ADD:

  • 興行主ご自身がどのタイミングでCM映像を挿入するかを決定できる(タイミング A と Bの間)。例えば公演の休憩時間等。
  • 興行主ご自身が配信したい広告内容を決定し、CM映像コンテンツをクラウドに置く。
  • CM映像コンテンツを格納するクラウドはAWSのような有料サービスを利用する必要が有るため運用費が発生するが、以下の費用対効果で対応可能。
    • 低価格化されたCM映像挿入の手法を活用
      • これまでの手法は、例えばSCTE-104のような高価な機器の準備や、クラウド上のトランスコーディングを要し、高コスト構造の主な原因となっていた。”SIMPLE CM ADD” のような手法であれば、SCTE-104、トランスコーディング、共に不要となる。
    • クラウド型CMの利点を活かしスポンサー広告収入の増加を狙う。即ち、特定の地域ごとに異なった狙いの宣伝広告を個別に配信することで、同じCM時間帯に複数のスポンサーをつけることができる。
      • 例えば米国市場への進出を図ろうとする企業A、中国市場への進出を図ろうとする別の企業B、この二つの企業を同じCM時間帯のスポンサーに付けることできる。米国視聴者へは企業AのCMを、中国視聴者へは企業BのCMを配信する。世界を相手に展開すればより多く機会が生まれ多様な広告主を得る事に成る。

 二つ目の観点は、録画配信を観ている視聴者が過去のコンテンツなので出演者は既に別の形で報酬を受けた、と思い込むリスクである。これではチケット代金をお支払い頂くのは難しい。このリスクを回避する方法は、視聴者に「一期一会」の体験を与えることに尽きる。我々は記録映像の再視聴を不許可にする試みを行っている。その代わりに全ての公演をライブ配信する事を想定している。不幸にして見逃した視聴者に対しては、後日のチケットへの交換や再購入で次回の公演のライブ配信を視聴して頂く試みである。各々のライブ配信はまさにライブ、生放映。視聴者は即時性ゆえの興奮に満足し、記録映像配信に対価を払う時とは全く違った価値を見出す。記録映像の再視聴をやらない事により収録映像デジタルデータをクラウドに保管する必要もなくなり、映像配信の必要経費を低減にも繋がる。

 ところで、それぞれの国によりライブ配信の対応能力には大きな差が有る。そのライブ配信の実施を支援するためにすべての国に出向く事は現実的ではない。必然的に ”SIMPLE LaaS” の遠隔サポート構築が必須となり、その要となるエンコーダは以下の特長を備えている必要がある。

  • 小型軽量かつ頑丈であること
  • 騒音雑音を許さない能楽の様な各国の伝統舞台芸能にも対応すべく、冷却用のファンを使用しない等、静寂な作動が可能であること
  • メインサーバーに不具合が発生してもバックアップサーバーがとって代わることで公演のライブ配信が途切れないことを担保すべく、一つのエンコーダから異なる国内外の配信網 CDNに向けて同時に配信できること
  • 公演の舞台全体の広がりと同時に微細な部分の映像を臨場感たっぷりに視聴者に届けるために4K に対応していること

これらの性能を満足させるために、我々は米ビデオン社と共同開発したEdgeCaster4Kを用いている。このエンコーダの心臓部は米クアルコム社の携帯機器用に設計されたSoC (System-on-a-chip)を採用し、7w以下の低消費電力を実現、冷却用のファンが不要。また、小型(38.1mm×127mm×107.5mm)で軽量(450g)ながら、複数のHTTPと複数のRTMPストリームを同時に配信可能、加えて4Kもサポートしている。

《 要 約 》

 今回は高性能な舞台芸術のライブ映像配信を簡便にしかも低コストで実現、という我々のミッションを紹介しました。革新的技術とツールの活用を通じて新たな興行収入の道を開き、興行主ご自身のコントロールで収益性の高い持続可能なライブ配信事業運営の可能性を示しました。その運営形態が舞台人と視聴者を直接的に繋ぐ「ライブ映像配信の民主化」であります。

Ren Egawa〔穎川 廉〕(著者)

IABM南北アメリカ審議会委員、Rexcel Group (米国フィラデルフィア) CEO、レクセル日本〔株〕CEO、映像とIT関連業界で30年以上にわたって経営と技術を先導。多くの映像関連特許を有しSarnoff/SRIではSoC開発者として、STマイクロではソフトウェアに関する国際技術戦略責任者を歴任。

松下電器産業〔株〕(現、パナソニック)ではワシントンDC におけるデジタル放送の規格化(ATSC)への貢献に対する役員表彰を受賞。

詳細は ⇒  https://www.rexcelgroup.com

Sammi Cannold (ゲスト寄稿者)

2019年、雑誌フォーブスが選ぶ30歳以下のハリウッド等の興行界を代表する30人の舞台監督の一人。最新作としてEvita (New York City Center), Endlings (New York Theatre Workshop, A.R.T.), Ragtime on Ellis Island, Violet on a moving bus (A.R.T.), Allegory (La Jolla Playhouse WOW) 等。長編ドキュメンタリー Carmen (Lincoln Center w. MasterVoices) 制作中。The A.R.T. の Artistic Fellow, シルク・ドゥ・ソレイユ の Creative Cognoscenti, Sundance Institute のFellow 等の要職を兼ね、Playwrights Realm, The Eugene O'Neill Theater Center, New York Stage and Film, シルク・ドゥ・ソレイユ,  Nickelodeon 等での制作の実績を持つ。

スタンフォード大学学士号、ハーバード大学修士号取得。

詳細は ⇒   www.sammicannold.com

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